2007年頃から家計簿をつけている。家計簿ってやつはてきめんに 効果があるもので、あの頃を境にあきらかに遠出が減った。

ある時、突然ふってわいたように2週間の時間ができた。かちゃんが 子供つれて実家へ帰るのだという。2週間である。世間の人ほどでは ないにせよ、2週間の時間は貴重である。もう、次は10年後かもし れない。

とはいえ3月。山は冬である。ダイナミックな縦走ができるわけでも なく、長期だとしたら行けるのは奥秩父くらいだ。甲武信小屋も営業 していないのでそちらで手伝いというわけにもいかない。ピンときた のが九州行きだった。九州の百名山には思い残しのある山が多い。開 聞岳の登頂は2001年、となっている。もう、13年。そろそろ行っ てもバチは当たるまい。

家計簿つけはじめて、はじめての九州行きである。お金なんかなんに もない。家計簿によると今月は明日の食い扶持さえないような状況だっ たが、とにかくガソリンさえ入ればなんとかなる、と思ってでかける ことにした。


1日目 開聞岳

初日をどこにするか悩んだが、とにかく、「一番登りたい山を先に登 ろう」というので、最南端まで走った。前の日の昼12時に家を出て、 ほとんど休みも取らず、夜通し運転して開聞公園についたのが朝の7 時。約19時間の長旅の後、いきなり山に登るわけである。

開聞岳の思い残しは、山頂からの展望。ぜんぜん見えなかったわけで はないのだが、もっといい日があるだろう、と信じてやまなかった。 それがこう、まずまずの青空の日にあたって、喜び勇んで登るわけで す。

登山口の雰囲気はあまり変わっておらず昔のまま。ここから歩き始め て、あとは有名な螺旋状の、単調な登山道をあがります。休憩はとら ずに数名を追い越します。若干ロープがかかっているところがあって、 そこを上がるとほどなくして山頂に到達です。

思い描いていた展望はといいますと、ぐるっと1周360度、ではな いんですね。海の手のほうが少し切れて見えるようになっているので す。残念ながら、こんなものだったのか、という思いを胸に抱きまし た。それでも、海岸線が見えて、気分は爽快です。すこし冷たい風が 吹きました。30分くらい座っていたでしょうか。かなり長居したつ もりになります。徹夜明けでやってきた山頂で感慨もひとしおになっ たところで下山を開始します。

登山道は1本しかありませんので、必然的に往路を下山することにな ります。

1日目 霧島山

初日は開聞岳だけ登るつもりだったのですが、おりてきた時間を見る ともう1山いける。おカネにものを言わせて高速道路を制限速度でかっ とんでえびの高原へやってきました。時間は3時、すこし前です。5 時には下山したいから、のぼり1時間くだり1時間とみました。車の 中の水を2口3口と飲んだら、あとはカメラだけ持って山頂へ向かっ て走ります。CT1時間30分くらいあったと思いますが、40分く らいで山頂到着です。

霧島山の思い残しは、新燃岳や大浪池。もう記憶が定かではありませ んが、たぶん僕は新燃岳は登っているとおもいます。ですが、九州も 火山活動が活発で現在登頂禁止になっています。残念ながら、ここは 「登った」というだけでよしとしましょう。

2〜4日目 宮之浦岳

屋久島です。屋久島には思い残しがないだけに、本気で行くか行かな いか逡巡しました。鹿児島港までクルマできていて、あと2万円ばっ か払えば、みんなが憧れる世界遺産の屋久島登山である。だけど、そ の2万円が、払えない。

屋久島だけなら、飛行機払って登りにくればいい。だけど、だけどだ よ。僕の性格からいって、次に屋久島登りたくなったら、たぶんクル マでここまでくることになると思う。飛行機は好きじゃないし、自分 でいろいろ手配して時刻表調べたりするのがヤなんだ。だったら、こ こにいる今登るしかない。

いつ登るの?いまでしょ。

1つ条件があって、それをクリアしたら屋久島行きにしようと思った。 それを聞いてやろうとおもって、前日の19時頃にトッピーの窓口へ 行くわけなんです。ですが、窓口はすでに閉まっている。

明日聞いて、ダメだったら明日は空振りの日になる。
もう、屋久島はいいか?僕にとっては、その位の感覚だった。

とにかく、明日にチャンスをつないで、鹿児島で一夜をあかそう。と いうことで、鹿児島で一夜を明かし、翌朝6時に窓口へ改めていった。 そしたら、あっさり条件をクリアしてくれたので、10分後には屋久 島行きの切符を握っていた次第である。

10時、20分だったかな。安房行きのトッピーにのりこみます。安 房行きのトッピーは午前中1便なので、これに乗れないとアウトです。 途中、さきほど登った開聞岳がよく見えるわけなんです。鹿児島湾の 突先にある目立つ山です。
こいつに乗りまして、安房港におりたちます。

とはいえ、おカネがあるわけでもなく、民宿なんかはとれません。安 房港から直接山内に入って、その日のうちに避難小屋へ行かないとい けない。
安房から、紀元杉行きのバスにのりかえます。接続は30分なので食 事したりしている時間はないでしょう。このバスに乗ったのは、僕1 人だけでした。14時30分紀元杉でおろされまして、淀川登山口へ 車道を歩きます。タイムは10分か20分になっていると思うのです が、1.4キロほどあったと思い、のぼりですから30分ばかりかか りました。でもって、40分ばかり森の中を歩いて淀川の避難小屋へ。 登山口の静かさからは想像できないような人の入れ込みでしたが、自 分のスペースがないというほどではなくて無事スペースが確保できま した。
一昨日は徹夜、昨日も車中で2時間ほどしか寝ていない。ということ で、この日はそうそうに寝入らせてもらいます。

屋久島2日目は雨。まあ、屋久島は雨がデフォルトなので仕方ない。 雨具を着込んで出発しますが、宮之浦岳方向へ向かったのは僕だけだっ たようです。
ほどなくして宮之浦岳登頂です。冬の雨は体にこたえます。座りもせ ずに避難小屋へ向かいます。もう、避難小屋でゆっくりしたいのです。

今日の宿泊は新高塚小屋。ずいぶん綺麗だった記憶があったのですが、 記憶違いだったようです。ドアの向きまで記憶違いだったので相当に 人間の記憶というのはあやしいものです。
ドアをあけますと、中にテントが一張り。まあ、早い時間だからまだ これからと思っていますと、あときたのは16時頃に1人だけという さびしい状態になってしまいました。

そして、夜中ネズミ君が騒ぎまわるわけなんですよ。

食べ物は吊るしてあるんですけど、ほかに何かかじられるとヤだ。で もまあ仕方ないので放置して寝入ります。

屋久島の思い残しは、ないといえばないのですが、前回は縄文杉が明 け方まだくらいうちの見物になって、ほとんど見たんだか見てないん だかわからない状態だった。今度はそれをみてやろうと思って、3日 目は少し遅い時間に出発します。無事縄文杉をビデオにおさめまして、 雨の降るトロッコ道を下ります。楠川分かれから左へ折れた途端、誰 もいなくなりました。

そして、この森がすごくいい!

晴れているとたぶんなんでもないんだと思うけど、ガスがあがってき て幽玄です。そういう意味で言うと、甲武信岳にどこか似ているので すが、山のスケール感が違い、圧倒的な力で体の中に入り込んできま す。これだけでも屋久島へきた甲斐がありました。カメラレインコー トを持っていないので写真は適当ですけど、ゆっくり写真撮るには山 中もう1泊だよな、と思わせました。

11時くらいに白谷雲水峡に下山しまして、11時30分か何かのバ スに乗り宮之浦港へ出ます。ハイシーズンは宮之浦から14時くらい のトッピーが出るのですが、これがないのでバスをのりかえて安房港 へ行き、13時20分だかのトッピーにのり島を離れます。

もう、2万か3万かあれば、島内をゆっくり観光したり、愛子岳やモッ チョム岳へも行けるんだろうなあ、と思います。ですがまあ、僕にとっ てはここまでこれただけで満足とすることにしました。


5日目 久住山


久住山は僕の山行史でも5本の指に残りそうなくらい素晴らしい山で したが、坊がつるからの朝日ってやつを見てないので、それが心残り でした。で、今回は荷物の中にテントを入れたのです。ですが、トッ ピーの中で見た天気予報ってやつが、この先1週間は曇り雨がちでしょ う、という具合に出た。残念なことに、朝日は拝めそうにない。さあ どうするか。とりあえず、登ってはおきたいので登山口をぐるぐるし ます。赤川温泉から牧の戸峠、とぐるぐるして、結局この日は400 キロ以上走りましたが、最終的に登山口に選んだのは長者原です。こ こから坊がつるを目指して、温泉に入ろう。ということでスタートし ます。
1時間ほどで坊がつるへでてきます。早い時間だったので、ちょっと 靄っていますが朝日も見ることができました。でも九州で言えば屈指 ですけど、全国区ですばらしいかというと、もっといいところがある よね、という気もします。

坊がつるからは砂防ダムわきをあがりまして、北千里で道を間違え無 駄に登ってしまいますが、道を改めまして久住分かれにでてきます。

最高峰は中岳ですが、今回は久住山だけでいいことにして久住山のほ うを目指します。さすがにテント装備なのでCTを大きく切り込むこ とはありませんが、3時間弱くらいで山頂に立ちました。風が強く、 寒くて立ち止まっていられません。そうそうに撤退してきまして、法 華院温泉ですよ。

ぷはー


というわけで、歩いてしかいけない温泉に入りまして、下山してきます。 テント装備を背負って日帰りになってしまいましたが、温泉も入れたし、 ここは十分満足な山行になったと思います。


5日目 阿蘇山

久住山は1泊2日の予定だったのですが、ゴゴイチには下山してしまいま した。今からでも阿蘇山登れるなあ、と思って、車を阿蘇山に向けて走ら せます。時間がおしているのでここはお金で解決する、と思って、有料道 路を使おうと思ったら目の前で有毒ガスのため火口付近立ち入り禁止通行 止めということで料金所をぐるっと回って出口へ誘導されます。

いちおう、立ち入りできる範囲で高いところに行くのが登山だから、これ で登頂だよね。んだけどまあ、…寂しい登頂だなあ。せめて車からおりれ ばよかった。

6日目 祖母山

本丸です。祖母山は思い残しの大きい山です。最短コースの北谷登山口か ら往復したのですが、そのとき、誰もがネットで記録を書くようになった 今では考えられないことですが、13年前の話で、誰が記録を書いたかわ かるくらいネットが狭かった。その記録を祖母山九合目小屋のおやじが見 ていたんですね。九州までいって登るほどの山じゃないって書いた。それ で、怒られた。祖母はそんな山じゃないって。それで、いつか尾平のほう から登ってやろうとずっと思っていた。その念願がかなう日がやってきま した。

道の駅で車中泊だったのですが、期待に胸をふくらませ、朝まで待てなく て夜中尾平へ車を走らせて、それでさらに待ちきれなくてヘッドライトを つけての登頂です。ですが、…橋をわたったところで道をロスト。尾根コー スを行こうとしたのですが、どうしても道がみつからない。仕方ないので 林道コースへ行きます。行きますが、こちらも道をロスト。踏み跡が薄い 分テープがべたばりになっているのですが、夜中なものでテープがみつか らない。
でもって、ちょっと明るくなるまで20分くらい待機して、それで登りま す。林道から主尾根へあがると、あとは一本調子で標高も書いてあり整備 も行き届いています。雰囲気は西丹沢によく似ています。

意外と時間かかりましたが、3時間と少々後には、山頂にたっていました。 展望はぐるっと一周です。たしか、久住や鶴見岳なんかが見えたと思います。

くだりは九合目小屋に尾平2時間〜4時間、と書かれていました。尾平まで 2時間じゃトレランだよ、と思って下ったら、2時間をわずかに切る時間で 下れました。

祖母山は、山自体はおおきいけど、やっぱり丹沢だよ。悪いんだけど、丹 沢と祖母とどっちがいいか、と言われると、似てるしなあ、と思うんです。 山って登りつけると遠くて高きが尊くはなくなる。そうすると、祖母傾の 縦走も、丹沢の主稜の縦走も、どっちも尊いものだと思うわけさ。だとし たら、僕らは丹沢の近くの住人として、丹沢の縦走を大事にしてあげない といけない。残念だけど、久住は、おおっ九州まできた甲斐があった、と いうアメイジングさがあると思うんです。だけど、祖母だったら丹沢でい い。あの場所にあることは貴重だけど、全国区としてすばらしいかという と、僕はそうじゃないと思うんです。


7日目 伯耆大山

最寄りのICは米子?ですが、下関ICからひたすらR191→R9と走って 伯耆大山までやってきました。まあ、冬山だろうと思ってピッケルとアイ ゼンを持って登り始めますと、2合目あたりから雪がではじめます。下の ほうはブナ林。6〜7合目あたりはけっこう滑ったらきわどい斜面なので、 みんなストックで登っていますがピッケルがないとこわいところです。2 時間30分後登頂。展望はまっしらでよくわかりません。山頂は強風で立 ち止まっていられずすぐにひきかえしてきます。下山中には雪がふってき ましてびっくりしましたがそんな予報の中でも大勢の人が登ってくるので もっとびっくりしました。

7日目 蒜山

ずっと「登りたいリスト」にいた山です。伯耆大山から下ってきまして、 2時間30分とちょっとCTのビッグな山ですが10時30分でしたので その日のうちに登ることにします。
最短ルートの塩釜スキー場のほうから登る予定だったのですが、途中で道 を間違えまして、目の前に登山口、とか書いてあったものだからつい上蒜 山スキー場のほうから登ってしまいます。登山口まで0.9キロ、と書いてあ りますが、その位の距離を牧場の中を歩いていきまして、登山口を入りま すとスギ林。目の前にマムシ注意の看板がありましてビビりますが、残念 ながらまだマムシのシーズンにはなっていないので安心です。というか、 それを狙ってこの時期にしたのです。
ひどい階段を上がりますと尾根にのっかり自然林に変わります。けっこう な登りですが、展望が出てかなり爽快です。この尾根は爽快尾根と名付け たいくらいです。
ナサケナイことに1080.8の三角点はみつけることができませんでし たが、1080.3あたりから雪がではじめます。
槍ヶ峯には道標はたっていませんが、まあこのあたりだろうというの は推測できます。上の方では風とガスにやられます。
山頂は山の交差点みたいなところ。展望もないし、明確な道標もありませ ん。1202の少し先に1199.7という三角点があるので、ここに立派な道 標が立っているのでしょう。でも三角点は山頂とは無関係です。バカらし いので行きません。
たぶん、この山頂の不甲斐なさが蒜山をイマイチメジャーな山にしきれな い理由なのでしょう。とはいえ、一応二百名山に名を列ねている山でもあ るのです。
帰りは往路を下山します。避難小屋なんかに泊まったりしたら楽しいだろ うな、と思ったわけなのです。そして例の爽快尾根を下ってきて、牧場を 歩いているとこれから登ろうという人に遭遇しました。もう2時半か3時 近かったと思います。確かにこれから登って、まあ折り返してくれば日帰 りできるけど、そんな手練でもなさそうだったし、装備もあきらかに日帰 りだったし、大丈夫なのか?と思ったのですが、口には出しません。

8日目 石槌山

大山から翌日は石槌山…相当、アホでしょ。ええ、アホですとも。踊るア ホに…そりゃ違う県だって。というわけで、石槌山です。

4月1日から石鎚スカイラインが開通するのにあわせて、4月1日午前2 時に石槌スカイラインにやってきます。よくみると、7時開通予定とか書 いてありますね。どうもよく見ると、この日だけでなく、毎日7時にゲー トをあけて18時にゲートをしめているようです。7時ってアンタ、遭難 しろと言わんばかりの遅い出発なのですが、遭難したら道路のせいにする からなっと。いうわけで土小屋から出発です。1人先行させまして、後ろ から20mくらい間をあけてついていきます。しばらくはよかったのです が、前の人途中で止まる。なんだと思ってよく見ると雪渓のトラバース。 今日開通した石鎚スカイラインからですから、当然先行する登山者なんか なくて踏み跡がないわけなんですよ。滑り落ちたらだいぶ下までいってし まうので、道路のせいで遭難しました。違うって。キックステップとかで はいきづらい。だいぶ悪いんで、ここで持っているピッケルでカッティン グします。俺ってかっこいい?みたいな。いやーまさかね。下から見ると 雪なんかなかったからいらねーべと思ったんだけど、念のためと思って持っ てきてよかったです。

ここで先頭を交代しまして、もうすこし前へ行くと再び雪渓のトラバース が出て来まして、例によってカッティングするわけなんですけどもう疲れ てきたんですよ。後ろの人はなかなかこないし、1人むなしくカッティン グする様は以下略。そして三度カッティングに入ります。こりゃしんどい し敗退にしようかな、と思い始めた頃、後ろから人がやってきます。さっ き追い越した人ではないようです。先いきますか?って言うから行くって 言う。カッティングしますか、っていうといやいい、とか言ってキックス テップで先へ行っちゃった。もう参りましたが、けっこう冷や汗モノで二 ノ鎖小屋跡地までやってきました。CT1時間30分くらいですが、ここ まで3時間近くかかりました。もう、行ける雰囲気ではありませんが、こ こでアイゼンをつけます。アイゼンをつけりゃバッチリだ、とか言われま すが、でもって…結果、30分後には山頂に立つことができました。

帰りは踏み跡もしっかりして、ラクラクでかえってきます。

山頂からは笹ヶ峰なんかが見えるわけなんですけど、四国にはかっこいい 山が多いわけなんです。そのいくつかに登れずに帰ることになります。

そしてシンデレラの魔法が解ける日がやってきました。帰りは車で走って もたいした距離ではありません。浜松ICで出まして、あとは一般道をひ た走りますが、箱根を越えると涙が出てきます。

たぶん、もう人生最後の九州旅行。もう、行くことはないかな。 四国はもう1度いきたい。

おじさんに、また四国くるからね、と行って下山した、その日を忘れない ようにしようと思った。


最終更新日: 2016/07/22 by htmltophp.php