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七月三十一日(縦走五日目) 
中岳〜荒川岳〜高山裏〜小河内岳〜烏帽子岳〜三伏峠

 朝、四時頃には起こされます。昨晩の中岳避難小屋はかなり入れ込みが多 い状態でした。大学の学生が調査のため中岳避難小屋に泊まりこんでいた のですが、彼らも自前のテント(設営の許可を受けたらしい)へ引っ込ん で、僕なんかは一階の炊事場所で寝るような始末でした。おかげで多少広いス ペースを我が物顔で使うことができましたが、本来寝床ではない場所ですから朝は早く起こされ てしまいます。まあこれは予想済みです。
 日の出前に出発して、中岳の山頂あ たりで日の出を望もうかと思ったのですが、立ち止まるのも面倒だったの でそのまま歩きはじめることにします。ふりむくと軽くオレンジ色に色づいた空に悪沢岳のわきから太陽が出てきたみたいです。一応晴れ空ではありますがもう一歩すっきりしません。そろそろ夏のはじまりらしい梅雨明け一〇日の、僕らの胸と両腕を焦がすような青空がやってきてもいいはずなのですが。
 今日は大斜面を下ります。南ア最大の斜面。標高差七〇〇mの下りは、下りでもしんどい。 空はカールを下るに従ってどんどん狭くなっていきます。足にきた頃やっと樹林の中へ入り、しばらく水平に歩くと水場。荷物を投げ出して座り込みます。
 今回は朝一番だったが、日が上がってくると照り返しがきつく逃げ場がないルート。若かりし頃、逆からやってきて、まだ二〇〇mくらい残して動けなくなった記憶がある。荷物をぶん投げてひっくりかえっていたが、そのときは幸いにも大ガスだったので死なずに済んだ。先行したグループの足跡を追って歩いていたが、次第に離され、つづれ折り一つ遅れ、二つ遅れ、ついにガスの中に見えなくなったところで緊張の糸がきれた。座り込みたいのをぐっと我慢し、どこかにテント張れる場所はないかと目で追いながら登っていたと記録している。別の年には、荷物はおろしたくない。ポケットに手を入れブドウ糖を口につっこむ。早く精神的重圧から開放されたい、と書いた。そして、こうも書き記している。

南アルプス
多分僕はその大きさに魅せられて、そしてその大きさに苦しめられるような登り方を今後も続けていくのだろう。

その標高差
その高さ
その広大さに苦しめられたとき、

ふっと顔をあげたところに広がる限りなく青い天空にそびえる大地

それが、南の魅力。

 南アルプスの縦走は全て食料もテントも背負って、端から端まで歩く。横から出ると帰りの足の確保が面倒である。そんなことを何度かやって、幾度も辛い思いをしたけれど、ルートの勘所はわかったので、もう座り込むほど苦しむようなことはなくなった。南アルプスでは、ちょこまかと細かく登ったり下りたりせず、登るときはまさに一山豪快に登らされる。登らされたところは無名ピークなんかではく、それなりの量感があっていずれも豪快だというところが、精神的では穏やかでいられる所なのかもしれない。

 樹林に入ると穏やかなルートに変わります。静岡県と長野県の県境。地図を見ると長野県側は等高線が詰み、崖マークも一杯ついていますが、登山道からは想像もできません。気持ちの安らぐ登山道をしばらく歩いていくと、次第に空がひらけてきます。小河内岳(おごうちだけ)の登りにさしかかりました。南アルプスらしい、眼前に霊峰富士の見えるこじんまりとしたピークです。この一角に避難小屋があるので、小河内岳の避難小屋へ立ち寄ります。小屋番はまだ変わっておら ず、この場所では三度目。でも、前回は三年前。名刺交換して 年賀状も出した、といってもさすがに三年前では覚えていてくれません。今日は泊まりではないので、ジュースだけ買います。山中でジュースを買 うのは反則ですが、まあここは三年ぶりの再会の口実ですから許すことに しましょう。ジュースを飲んで、先へ進みます。
 小河内岳はあまり有名ではありませんが、他所の山域へ持っていけば決して二流をくだるピークではありません。たまたまナントカ名山とかいうリストから見放されて、たまたまメインの縦走路から外れてしまったばかりに訪れる人もまばらですが、もったいないなあ、と思うのです。富士山写真家だけの山にしておくのは、もったいない。
 この翌年塩見小屋から、峠一つへだてたこの場所に移ってきた小屋番は、退屈そうに「こんなにヒマだと思わなかった。通過する人もいない」と述懐しています。勿論僕はこの人がまだ塩見小屋にいたときに、声をかけることもできそうにない位忙しく働いていたのを覚えています。そういう僕も、今度泊まりにくると約束しておきながら、いまだその約束は果たせずにいます。南アルプスのこの地は、…地理以上に遠いのです。

 小河内岳をすぎると次に見えてくるのは三伏峠。日本三大峠の一つですが、はじめての訪問になります。ちょっとこうね、水場を通ってショートカットするルートが、昔はあったのでそちらばかり使っていました。ちょうど一番底のところに、三伏小屋という小屋があったので道がついていましたが、ついにボロボロでガタがきていた三伏小屋は閉鎖されてしまいました。 小屋だけ閉鎖なら良かったのですが、登山道からテント場まで全部閉 鎖になってしまったので、ちょっと遠回りになり水場も遠い三伏峠へ回らないといけなくなった。
 ほどなくして、水場の道標がやってきま した。三伏峠に水場がないのは先刻承知の上なので、ここへザックを下ろ して給水です。今にも降り出しそうな雨を待って天水を集める手もあり ますが、まあそんなしち面倒くさいことをしなくても、往復一〇分ですから 行ってくる気になりました。この道標から水場までは往復一〇分くらい。 ここから三伏峠へも一〇分くらい、という感じです。

 三伏峠の小屋はもっと綺麗に整地された上に立っているのかと思いきや、 樹林の中の普通の山小屋。テント場と小屋とトイレがだいぶ離れていて、 トイレへ立つのが面倒です。テント場は綺麗に整地されておりなかなか快 適です。で、テントの受付をして、ああ、またビール…また飲んでしまい ました。そろそろ休肝日を取らないといけなそうな勢いです。
さすがに三伏峠は塩見岳最短ルートということで大入りです。でもテント 場の入れ込みはたいしたことはありません。ほとんどの人は一日目鳥倉か らあがってきて一泊、明日塩見を往復して一泊、三日目下山のプランみた いですが、二泊三日あれば縦走もできるだろうになあ。こういう二泊三日 のプランを考え出す人が、何を考えて山に登っているのか、よくわかるだ けに切ない気分です。まあ、本人がよければそれでいいんだけどさ。

 今日はもう天気はどうにもならないと思ったのですが、夕刻には塩見岳が 樹林越しに頭を覗かせました。塩見の見えたテント場は小屋どまりの人も 入り乱れて一時騒然となります。明日の天気はうまい具合に回復に向かい そうです。

*コースガイド

 荒川前岳付近の崩壊が激しいので、そこは注意が必要です。高山裏〜小河 内岳直下付近までは樹林帯のルートになります。旧三伏小屋分岐から三伏 峠間はルートがちょっとわかりにくいかもしれません。
小河内岳〜烏帽子岳あたりまでは好展望のルートですが、落ちるようなと ころはないと思われます。

 高山裏から三〇分の水場はよく出ていました。こちらは登山道沿いです。 高山裏の水場は少し下らないといけないので、ここで汲んでいくのが楽で しょう。小河内岳避難小屋には水はありません。
三伏峠小屋の水場は、三伏峠の高山裏側にあるので、高山裏から行った場 合一〇分程度で往復できますが、塩見側から縦走してくると、三伏峠小屋 から往二〇分程度かかります。小屋自体には水場がなく、水もわけてい ないようですのでこの水場を通過する際、可能な限りいっぱい汲んでおく 方が便利と思います。

高山裏避難小屋ではEPIのガスカートリッジを取り扱っています。一〇〇〇円。

区切り線
写真 悪沢岳の朝
写真 板屋岳の道標は、注意していないと気づかない(というか、この道標が立っているところはそもそもピークではないし…)
写真 えーっと、あのはるか高みにカモシカがいたんですけど、写真では無理だったみたいです…
写真 花です
写真 烏帽子岳
写真 烏帽子−荒川方面
写真 マツムシソウ
写真 三伏峠のテント場から、塩見岳が見えました


最終更新日: 2016/07/22 by htmltophp.php




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