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八月十一日(縦走十六日目) 
三城牧場〜イシイスポーツ〜松本駅〜島々宿

 ここまでやってくれば、あと松本までは一八キロくらいです。今日は松本市内 のビジネスホテルに泊まる予定ですから、今日は軽い日になります。今日は久 方ぶりのお風呂。そして、下界でおいしいものを食って、ベッドで横になって 就寝です。

 山ヤの普通の行動時間は、下界では異様な時間になります。一番最後に着いて、 一番最初に出発です。朝三時半頃から星空の下で食事の準備を済ませて、四時 過ぎには出発です。キャンプ場の滞在時間、一〇時間。うち就寝八時間。一体 なにしにキャンプ場へやってきたんだ?と、スローライフを満喫しているキャ ンパーは言うことでしょう。

 でも、キャンプは目的じゃない。手段です。

 僕がやっているのはキャンプじゃなくて徒歩旅行。徒歩での旅自体がスローな のであって、たまたまこの日が慌しいキャンプになってしまった。それだけの 話です。

 まだ目覚めぬ三城牧場をそっと抜け出して、ゆっくりと歩いていきます。この 時間に出発すれば、お昼頃には松本へ入れるでしょう。行程中たった一度の、 登山用品店に立ち寄れる日。買い物をして、ホテルを取って、としていれば、 いい時間になるはずです。今日の行程はそれで終わることでしょう。

 しばらくは何もない森の中の舗装道路です。昨日はひっきりなしに通った車も、今日 のまだ明けやらぬ時間。通る車もありません。ゆっくり、歌でも歌いながら歩 いていくことにします。学生時代は合唱をやっていたので、そらで歌える歌は一杯持っています。二時間三時間は普通に歌い続けられます。

 二時間位歩いたでしょうか。ほどなくして人家が増え てきました。松本まではあと八キロ、と書いてあります。予定よりいいペース です。役場の前で一旦荷物を下ろして、歩道を進みます。松本市内の大きな建 物も見えてきました。市街地へ入ってくると、丁度通勤通学の時刻とあたった ようで街がせわしなくなるのが手に取るようです。相変わらずバス停が誘惑し ていますが、もう惑わされません。あと、松本城までは三キロしかないのです。 途中にセブンイレブンがあったので、携帯電話の充電器を購入します。電池式 のやつで、僕にとっては有難いんだけど、今日びどこにでもコンセントの一つ くらいあるだろうに、こんなもの普通の人が使ってメリットがあるのかな。で もコンビニに長く置かれているということは、相当な数が出ているってことな のでしょう。一体どんな目的で使うのでしょうか。
引き続いて、二十四時間営業のスーパーを見つけたので買い物です。便利になっ たものです。時間はまだ八時ですが、開店待ちをしなくて済むなんて実にあり がたいことです。今回は長坂のときと違って買いものが大量です。再びずっし りと重くなります。この荷物を背負ってアスファルト歩きはしんどくなりそう です。幸いなのは、まだ時間が早いせいか、少し曇りがちな天気のせいか、日 差しが強くなく、暑さを感じないことです。
 ほどなくして松本城にやってきました。無事イシイスポーツがみつかるかどう か不安だったのですが、とりあえず山小屋で「松本城とパルコの近く」という 事前の情報は仕入れてあったので、松本城から松本駅方向へ向かって歩きます。 これから探そうかな、と思った矢先に目の前にイシイスポーツの看板が見つか りました。無駄に歩く必要はありませんでした。
 時間はまだ九時です。当然、お店は営業していません。仕方ないのですこしぐ るぐるして、コーヒー店をみつけました。ランチセットを頼んで、優雅なブラ ンチです。チーズのかかったパンを頂きます。コーヒーはちょっと僕の好みに は濃すぎでした。

 とりあえずおなかもくちくなったのでお店を出て、三〇分ばかり待つか、と思っ てイシイスポーツの前にいきますと、開店は一時間後で した…一時間待ちはしんどい。それに、長いこと放置しているウェブサイトが 心配です。とりあえず警察へとびこんで、インターネットカフェの場所を聞き 出そうとします。…が、このあたりにはありませんね、のつれない返事。仕方 ないので自分の携帯電話から接続を試みます。極力シンプルなパーツを集めて 作ったサイト。携帯電話でも表示できないことはないでしょう。が、サイズが 大きすぎて表示できませんと怒られます。他人のサイトもいくつか当たったの ですが、普段巡回しているサイトで見られたページはありませんでした。
 一通りインターネットを試したあとは、目の前の神社でおみくじです。末吉で すが、旅には良いと出ました。続いて粋な洋食屋さんの前の藤棚のベンチに座っ て靴擦れの手当てです。いつこの靴擦れができたかはよくわからないのですが、 もう足は真っ赤です。多分なれない舗装道路歩きが良くなかったのでしょう。 皮がむけていないのが幸いでまだ歩き続けられますが、さっきばんそうこうを 一箱買いました。擦れて痛いところにばんそうこうを貼っていきます。都合、 七箇所。これでは一箱では足りません。後で追加で買うことにします。

 イシイスポーツの品揃えは、行ってみるまで不明でしたが、僕のほしかったも のは全部そろっておりました。 ガス缶の大きいのが一個、あと、ソルレオーネというインスタントスパゲッティ。 こいつは直径二〇センチ以上のなべで茹でてくれと書いてあるのですが、なべ に入れるときに半分に折るとコッヘルでも簡単に調理ができます。味もなかな かなので、重宝していて朝食はいつもこれで済ませています。それから、いざ というときの予備燃料ブドウ糖まで手に入ったのは幸いでした。買い物は都合 大きな紙袋1つ。一〇五Lのザックは再び天蓋がびろろろーんと伸びてパンパンに変わります。紙袋は重いので持っていけません。あとで処 分することにします。

 さて、今の時間は一〇時三〇分です。今日は松本で泊まる予定でしたが、まだだいぶ時間があります。この 足で島々まで行ってしまうことにします。宿泊場所なんか、多分なんとかなる ものです。今年買った真新しい地図乗鞍高原の図葉を片手に、国道一五八号線 をテクテクと歩きます。国道一九号線との交差点のところでふと右を見ると、エイ デンという電気屋さんがあります。何か今日はツイているようです。もうラジ オは諦めていたのですが、ラジオ入手のチャンスがやってきました。この電気 屋さんに立ち寄って、ラジオを物色します。が…九八〇円のおっきいやつしか ありません。小さいやつは七〇〇〇円。大きいやつは重量の都合上パスしたい。 さて思案します。でもまあ長く使うものだから、と思って小さいやつをお買い 上げです。今日はだいぶ散財してしまった感じです。
途中、上高地とかいうレストランで昼食をします。安くておなかがいっぱいに なるいい食事でした。

 上高地へ向かう国道一五八号線は片側にしか歩道がなく、しかもその歩道があっちへ行ったりこっ ちへ行ったりします。その度に道路を渡るわけですが、そろそろお盆のシーズ ンに入ってきました。とても道路を渡れるような交通量ではありません。もう やけになって歩道のない側の道路も歩いてしまいます。
道路が松本電鉄線のわきを通るようになると、少しづつ道路は標高を稼ぐよう になってきます。確かこれが最後のコンビニだったよな、と思って、しもじま 駅の前のコンビニで水を二L仕入れました。ザックはまたずっしりと重くなり ます。この重さで舗装道路を歩くのはかなりしんどいものがあります。今日は 四〇キロ近い行程を歩いています。もう歩く体力など残っていません。気合と 根性で足を前に進めて、四時すぎにようやく新島々の駅へやってきました。目 の前にはコンビニがあります。こんなところにコンビニがあるんだったら、水 の調達はここでするんだった、と思ってもすでに時すでに遅し、後の祭りです。
 ここにも宿泊案内所があったのでとりあえず駆け込んでみます。が、あまり色 良い返事がありません。紹介しようとした宿はお盆のシーズンゆえ満室。この あたりもみんな民宿やめちゃって、あそこはグループホームに変わっちゃった とか言っています。そんな話聞くために宿泊案内所入ったんじゃないちゅーの。 埒があかないので、とりあえず宿泊案内所を出て、島々の駅のベンチに座り込 みます。もう座り込んだら動けません。ジュース片手に小一時間座ったまま動 かずに考え込みます。再び靴ずれの治療。目の前のコンビニで二箱目のばんそ うこうを買いました。
 さて思案です。電車に乗って松本駅まで戻れば、立派なビジネスホテルがあり ます。明日電車で島々へ戻ってくればいいでしょう。もしくは、今日は上高地 へ行って小梨平でキャンプをして、明日島々へ戻ってくる、という選択もあり ます。でも、入山期間中は電車やバスは利用しない約束です。
かといって、島々には宿泊施設はない模様。とすれば、駅で寝る(ステーションビバーク=ステビ)しかありません。 島々の駅でステビする登山者は多分いっぱいいると思うのですが、本当にこん なところでステビするのかなあ。二三時すぎまで電車が走ります。ということ は、その時間までは駅員の監視に晒されることになるのです。僕にはここでの ステビはできそうにない感じがしました。

 そろそろ上高地行きの最終バスが出る時間です。もちろん僕はバスに乗って上高地 へ行く気などさらさらありません。まっとうな登山者は荷物を片手にみんなバ スに乗り込みます。そして、上高地へ向かって小梨平でキャンプすることでしょ う。バス停に並んでいる人を、少し離れたところからうらやましい思いで眺めます。同じ登山者なのに、何か気持ちは違っていて、自分だけが孤立しているような気分になります。

 何をしているんだろう。なんでこんなことをしているんだろう。

 人のことを心配するまえに、自分の心配をしなければなりません。島々宿まではあと一時間と見ました。とりあえず島々宿へ行ってみて、登山道 のわきにでもテント張ればいいや、と思って、ボロボロの足で再び歩き出すこ とにしました。さきほど買ったビールでいい具合に酔っ払って、いい気分になっ てしまった為の愚かな判断です。でなければ、この足で歩こうなどという思い は、微塵にも浮かばなかったことでしょう。

 新島々駅をすぎると傾斜も少し強くなってきます。トボトボと歩いていくと、 最終の上高地行きのバスが追い越していきました。もう、誘惑はありません。つらい一夜を送るしかなくなりました。やはり松本でホテルをとるべきだった。あたりは薄暗くなってきま す。左手に日帰り温泉が見えました。が、もう道路を渡るのはしんどい。道路 を渡るのがしんどいと思う位疲弊しています。風呂には入りたいが、ここは面 倒なので通過することにします。結果、予想通りの一時間で無事島々宿へ到着 です。
 最初に目に入ったのは神社らしきものの境内ですが、僕は神社に泊まっ たりしたら霊の類を連れて帰ってしまう可能性が大です。連れて帰るくらいならいいの ですが、こちらの世界へようこそ〜、なんて八峰のキレットの核心部でやられ たらたまりません。ここではテントを張らずに、島々谷林道を進みます。なか なかいい場所がありませんが、車両通行止と書かれたゲートの先に、少し広く なった場所がありました。ゲートのところには、車が一台止まっています。こ の昔日の徳本峠(とくごうとうげ)を、こえている人が今もいるのでしょう。
 今日はここがテントスペース。傾いていますが、ここならまず車にも 轢かれないでしょうし、川も道路を水没させるほどは増水することはないでしょ う。ここを一夜の宿にすることにします。時間はもう七時を回っていま す。周囲は真っ暗になりました。で、テントを張った途端、大雨です。ああよ かったよかった、と思ってテントの中で人心地です。よしっ今日はラジオがあ るからな、早速ラジオを聞いて明日の天気をチェックします。買ったばかりの ラジオが報じたのは、「明日は大雨のためがけ崩れに注意して下さい」
 多分この場所は安全だと思うのですが…嫌な予感がします。嫌な予感がすると きは、内なる声に従うのが賢明だと思うのです。もう八時近くなっていますが、 雨具を着て、テントを撤収です。ヘッドライトをともして、一旦島々宿まで戻 ることにしました。もう疲労は限界に達しています。それでも、歩くしかあり ません。
 都合よく、トイレの軒下に雨の吹き込まないスペースを見つけることができま した。でもここは街中です。テントを張るわけにはいかないでしょう。そのま まマットとシュラフを敷いて、今日は野宿の体制です。雨は斜めに降っていま すが、ここまでは雨は届きません。

 その昔、沢渡のバス停で、やはり夜中に下山してきて泊まったことがあったの を思い出した。夢破れた日だった。あの時は沢渡で、着の身着のままベンチに横になって雨の 一夜を明かしたものです。あのとき歌ったのはキロロだった。

 泣いていた。最後まで歌えなかった。辛い思い出だった。
 あれから七年か八年か、立っただろうか。再び同じことを繰り返すことがあるとは思わなかった。


激しい雨の向こうに、アルプスの峰々が見えてくるようだった。
そしてまた今日も、ぐっすりとは眠ることができなさそうだ。

 明日はどうしようか。大雨で土砂崩れの恐れがある島々谷を行くことは多分 できなさそうだ。さっき小耳に挟んだ情報によると、白馬岳の大雪渓で大規 模な土砂崩れがあって何人か埋まっているそうだ。だとすれば、なおのこと 拙速な行動はしたくない。
 今年は徳本峠越えと、栂海新道を歩くと、事前に宣言し てある。その、長い間暖めていた山行徳本峠行きが、今目の前で危機に晒さ れています。が、この天気ではやむを得ません。別のルートでの入山でも仕 方ないと考えなければいけません。
 とはいえ、このまま一五八号線をたどって上高地まで歩くのは、途中に歩道のないトン ネルもあり、あまりにも危険だ。信念を曲げてバスに乗って上高地へ入るか。 いや、バスに乗るという結論を下すには拙速だ。松本駅へ戻って、とりあえ ず一日停滞しよう。
目の前のバス停までバスの時刻を調べに行きます。朝のバスは七時すぎ。明 日はゆっくり出て行けばいい。

 いつしか眠りについていた。島々谷での野宿は、山に包まれているようで悪 い気分ではありませんでした。

区切り線
写真 線路にそって、歩道をテクテクと歩いていきます。お花が植えられていて、地元の人が管理しているようです。その立て札も、歩かなければ気づきません。
写真 変わった車をみつけました。今はみない、3輪自動車というやつですな。僕、3輪自動車が現役で動いていた頃、1度乗ったことがあるんだよね。年がバレルからそれ以上はやめておきます。
写真 もうこんな暗くなって、島々宿へようやくたどりつきました。
写真 上高地へ20キロとあります。ひえー、上高地まで20キロも歩くのか。これは遠そうだ。


最終更新日: 2016/07/22 by htmltophp.php




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