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八月十六日(縦走二十一日目) 
野口五郎小屋〜烏帽子小屋〜烏帽子岳〜船窪岳〜船窪小屋

 底なしの空腹がはじまりました。長期山行というものは、体脂肪さえ消耗 品です。白樺湖の時点ですでに体重が二キロ、多分体脂肪は三キロ位落ち ていたと推察されます。僕の出発時の体重は五八.四キロ。〇.四キロを 絞りきれなかったとも取れますが、体脂肪率九%ですから、脂肪の総量は 五キロ〜多めに見積もって六キロしかありません。そのうちの少なくとも 三キロを失っています。北アへ入って体重が増えることはありえませんか ら、もう脂肪さえ底を尽きかけている、と見ていいでしょう。とにかく、 朝食を食べて、歩き始めて、一時間持ちません。一時間後には空腹で歩み が遅くなるような状態です。行動食とお昼ではしのぎきれなくなってきま した。

 今日は幸い雨も上がっています。行き先は、烏帽子小屋か船窪小屋。烏帽 子小屋までだと二時間四〇分。船窪小屋だと一〇時間近い行程になります。 烏帽子小屋までということはないだろうけど、かといって船窪小屋までだ と相当しんどい。でも、一日休養しています。今日は頑張れます。船窪小 屋までにすることでしょう。
 野口五郎小屋を出発して、烏帽子小屋の方向へ歩いていきます。上の方は 真っ白ですが、三ッ岳あたりで下の方に高瀬ダムが見えました。大きなダ ムです。三ッ岳をすぎると僕好みの地形に変わってきます。大聖寺平みた いな、なだらかな丸い稜線は実に僕好みです。コマクサも生えていました。

 烏帽子小屋には僕の地図には水場のマークが書いてありますが、残念なが ら水は有料で小屋からわけてもらうようです。昨日水は補給しなかったの で、ここで一L水をわけてもらいました。

 烏帽子小屋までの間も決して人が多い方ではありませんが、まがりなりに も裏銀座縦走コースの一部ですから人はいました。が、烏帽子小屋をすぎ ると、もう人気はまったく感じられません。再びひとりっきりの山になっ てしまいます。樹林帯の中を少しあがって、花崗岩の砂礫地帯がでてきま した。すぐ目の前に鋭峰がたちはだかります。あれが烏帽子岳か。どこと なく雰囲気が瑞垣山に似ています。正面から見るととても登れそうにはな い感じがしますが、裏手へ向かって登山道が伸びています。
 地図を確認すると、烏帽子岳までは往復で三〇分かかりません。今日は行 程が長いですが、この位はいけますので、ここは山頂を踏んでいくことに します。ルートは、地図上には鎖が連続する登下降、と書かれています。 トラバースなのでちょっといやらしい感じですが、足場がしっかりしてい るので取り付いてしまえば比較的難なく登ることができるでしょう。山頂 からは四十八池方面の緑が映える展望が待っていました。しかし、少しづ つ天候は悪化してきています。ザックをデポした地点まで戻ると、もう四 十八池方面はガスで見えませんでした。
 烏帽子岳から、南沢岳方向に向かって歩きます。周囲はガスっていますが、 なかなか気持ちのいい稜線です。烏帽子岳から、五〇分か六〇分くらい行っ たところでしょうか。中程度のピーク左側に、南沢、と赤いペンキで書か れた所にやってきます。地図から言ってここが南沢岳でもおかしくはない んだけど、南沢岳まではコースタイムで一時間三〇分あるからこんなに早 く着くはずがありません。多分→南沢、のことで、南沢岳はもう少し先、 と見当をつけます。ここで登山道は右(東)側に向きをかえ、大きく下っ ていきます。続いて五〇分ほどで大きく上り返したところへやってきます。 これは不動岳の可能性が高い。二、三〇m先に黄色い道標が1本立ってい ます。字は見えませんが、この道標には不動岳、と書いてあるのはほぼ間 違いないでしょう。
 あいにく周囲の展望はありませんのでコンパスを取り出して方位を確認し ますと、どうやらここが不動岳で、さっき通過したのはまぎれもなく南沢 岳です。ということは、北アへ入ってからずっとコースタイムオーバーで きていたのが、荷物が減ってきて少しコースタイムを詰められるようになっ てきた、ということです。今日は意外と早く着くかもしれません。

 不動岳で大休止に入りまして、一旦靴を脱ぎます。気休めではありますが、 放湿しておかないといつまでも靴下は乾きませんし、靴擦れも治ってはく れません。
 三〇分位呆として休んだでしょうか。苦しくても行くしかないのです。再 び歩き始めます。次のランドマークは船窪岳の第二ピークです。一旦ザッ クを下ろしたら再び背負うのは大変な荷物です。極力ペースを落として、 何かトラブルがない限り二、三時間は歩き続ける。ここ数年は、そんな周 期でずっと歩いていました。従って、時間通り行けば二時間先の船窪岳第 二ピークで次の休憩です。不動岳をあとにして歩き始めます。道標には予 想通り不動岳、と書いてありました。
 不動岳から船窪岳の間は、右側不動沢側が崩壊激しくすっぱり切れ落ちて います。石灰岩のような色の岩と、もう少し白っぽい砂で覆われたがけっ ぷち。草木一本生えないということは、継続して崩壊中なのでしょう。こ んなところにおっこちたら即死か、生きていても蟻地獄で上がってくるこ とは不可能でしょう。できるだけ縁へ近づかないよう注意しながら歩いて いきます。が、もう古い登山道が崩壊してしまって新しい道がつけられた ようなところは、まともな刈り払いがされていないようで笹の茎のような もので登山道が覆われてしまっており歩きづらいことこの上ありません。 で、危ないかなと思いつつもよく踏まれた方の登山道をついつい選んでし まいます。よくない傾向です。だいぶ疲れが出てきた証拠です。

 今日のコースタイムは、九時間四〇分。今歩いているのはコースタイム七 時間目。そろそろ疲れが出てきてもおかしくない時間です。しんどさを感 じはじめる頃、今日も雨が降ってきました。今日半日晴れが続いて、表側 の表面だけでも生乾きになって少し色が薄くなりつつあった靴は、再びび しょびしょになってしまいます。そろそろ靴擦れから開放されたい、と願っ ていたのですが、その願いもむなしく、明日も新しい靴擦れができること でしょう。そして、今日も雨具のお世話になります。かなり緊張しながら 二時間一〇分くらい歩いて、少しコースタイムから遅れはじめました。午 後二時頃船窪岳第二ピークにやってきます。ここへやってくる頃には雨は あがってしまいます。タイムはあと二時間ですが、おなかも減っています ので、ここで昼食にすることにします。一旦荷物を下ろして、靴を脱ぐと 楽な気分になりました。でも、二時を過ぎてあとCT二時間、ということ は、どんなに頑張っても四時前には着かない、ということです。おまけに 疲れも出ていて少しタイムから遅れはじめています。まあ、早くて五時と 読みました。手際よく食事にしなければテントの設営は日没後になってし まいます。急いで火を沸かそうとしますが、ライターが湿っていて火がつ きません。こんなときのために予備のマッチを持っているんだよ。と思っ てマッチをあけてみると、水を吸ってボロボロになっています。これは使 いものになりません。まだ一本しか使っていないのに、諦めてこのマッチ は箱ごと廃棄です。また無駄な荷物が増えてしまいました。もう一本ライ ターが別の所にしまってあるのですが、雑多な荷物の中にまぎれてちょっ と探すのが面倒です。ここは、ライターを握って乾燥させる手段に出ます。 ほどなくして、無事火がつきました。これで食事が食べられます。
 結局、三〇分ちょっとこの場所で過ごして、二時四〇分頃の出発になりま した。
 船窪岳第二ピークから船窪岳の間は、相変わらず右(南)面が崩壊してい て注意が必要です。こんなところでおっこったら発見されないだろうな、 と思いつつ歩く気持ちの良くない登山になります。しばらく歩いていると、 両側が完全に崩壊して真っ白な山肌が丸見えになっている、木の橋と鎖が かかっている場所へとやってきました。見た感想。げっ本当にこれ渡るの? でも近づいてみると、確かにそれがルートです。ここまできて烏帽子小屋 までは戻れません。もう行くしかありません。自分の脛の高さにある鎖に すがってこの橋を渡りました。もうこのルートは嫌だ。うん、次は嫌です。 船窪岳を過ぎて下りはじめると、ものの五分くらいで船窪乗越に到着です。 乗越には道標が立っていました。こんなところに何の道標かと思ってよく 見ると針ノ木谷一時間と書かれています。それでようやく合点がいきまし た。
 ついに船窪乗越までやってきました。あとは最後の一時間を残すのみです。 今日は闇テン覚悟でしたが、結局テントを張れる場所なんかどこにもあり ませんでした。あと一時間、頑張ればテント場です。
 ここでは荷物を下ろさずにいきますが、もう足は限界です。あと三五分歩 いたら一旦休憩して残りの二五分を頑張ろう。そう思って、山ではなく時 計ばかりを見て足を進めます。約束の三五分を歩ききって、さあ荷物を下 ろせる場所があったら休憩だ、と思った頃、目の前にテントが見えてきま した。どうやら船窪岳のテント場についたようです。
 テント場はわかった。次は水場です。地図を見る限りテント場に水場があ るように見えます。テント場を見回すと、「危険なので暗くなってから水 場へは行かないでください」とかなんとか書いてあります。その脇に割と しっかりした踏み跡があります。水場とは書いてありませんが、これは経 験上水場への道と考えていいでしょう。
 もう四時二〇分です。暗くなるまでそんなに長い時間はありません。ザッ クをおろして、テントを張る前にとりあえず水場へ行ってくることにしま す。が、これがまた遠かった。下って下って、ついでに梯子場までありま す。これで出ていなかったらどうしよう、とか思っていたのですが、下へ おりてみると無事水は流れていました。往復で二〇分くらいはかかったの ではないかと思います。

 で、水を確保したら、次はテントの受付です。小屋までコースタイム一時 間のところ三五分でテント場まで到着した、ということは、冷静に考えれ ば小屋まで二五分かかる、ということです。上の方でテント張っている人 に、小屋までどの位かかりますか?って聞いたら、やっぱり「多分十五分 か二〇分くらい」といわれます。でも、誰も届け出してないから…ってお いおい。まあ、ここまではやってきたという記録を小屋に残しておかない と何かあったときの捜索が大変です。その保険の意味合いもありますし、 何よりもビールが飲みたいので小屋まで行くことにしました。が、もう歩 くと足じゅうが痛みます。とても歩けるような状態ではありません。歩け ば靴擦れは増える一方です。その数、両足で二〇箇所以上です。が、ビー ルが欲しい。この思いだけでまだ見ぬ船窪小屋へ向かって歩き続けます。 針ノ木への分岐をわけて五分。ようやく小屋が見えてきました。そして、 テラスで休んでいて僕が近づいてくる様を見ていた小屋番が最初に発した 声は、「どうしましたか」だったのです。痛みをこらえて足をひきずりな がら空身でやってくれば、到底まともな状態には見えなかったことでしょ う。「テントおねがいします。あとビールを一本」と言ったらずっこけて ました。
 反則だとは思いつつ、「あと、ばんそうこうを売っていたら譲ってほしい のですが」と言うと快く何枚かさしだしてくれました。野口五郎小屋から 来た、と言ったら「歩きすぎだ」と言われました。
 中は静かで暖かい小屋でした。今日はテントですが、いつの日か小屋泊ま りできてもいいな、と思わせます。今日の宿泊者は、見たところ三、四人 といったところみたいです。

 無事ビールもゲットしたので、再び足をひきずってテント場へ戻ります。 テントを設営し終わったのは六時になろうかという頃でした。今日は長時 間歩いた後に水場の往復小屋の往復と、さんざんな雑用がありました。お つかれさまでした。殊にうまいビールを飲みます。

 そして、僕の時点でもう遅い到着、と思っていたのですが、上には上がい ます。六時二〇分頃になって、もう一組到着です。扇沢から上がってきて 一三時間歩いて到着、とか言ってましたが、六時すぎまで行動するのはど うかと思ういます。到着するなり一人は水場へ走り、一人はテント設営です。 一部始終をビール片手に眺めておりましたが、手際は悪くないようです。 このところ天候が不安定で雷がきてもおかしくない様子です。行動時間さ え考えればいい山行ができるろうに、と思った次第です。

 僕の内なる声は、一日か二日か休憩とって、少し靴擦れが良くなるのを待ちな さいと言っています。幸いここは水場もありますし、もう一泊しても大丈 夫です。明日また天気が悪ければ停滞する方向でいくことにします。

区切り線
写真 雪です。雪田がありました。
写真 コマクサが生えていました。
写真 ガスに巻かれていますが、いい稜線です。ここをテクテクと歩いていきます。
写真 えーっと…わかりません。でも綺麗です。
写真 あれに見えるが烏帽子岳です。うん、とても登れそうにないように見えますが、どっこい綺麗な登山道がついているのです
写真 烏帽子岳の山頂へやってまいりました。
写真 えっと…正面に高い山が見えますねえ。あれは一体何でしょうかねえ。
写真 アザミです
写真 船窪岳の山頂へやってきました


最終更新日: 2016/07/22 by htmltophp.php




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