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八月十七日(縦走二十二日目) 
船窪小屋〜七倉岳〜北葛岳〜蓮華岳〜針ノ木小屋

 長期縦走へでかける場合、大抵はなにがしかの新品装備が混じるものです が、今年はお金がありませんでした。ガス缶さえ使いかけのものを持って きたのです。せめてもの買い物として靴下を新調したのですが、その新品 だった靴下は、磨り減って今にも穴があきそうになっています。
目の前の針ノ木小屋で、登山用ソックスを売っています。が、なんとなく途中で登山装備を調達するのは反則のような気がしました。松本のイシ イスポーツでも靴下を買うのは反則だろうと思って見送っています。山小 屋で靴下なんか調達したら、山行に傷をつけるようなものです。
予備の靴下は持てない。靴下は一足だけで通すと出発するときに決めたの です。決めた以上は、最後まで靴下は今はいている一足だけで通すのがルー ルです。
その代わり、ビールは飲みます。あーあ、やっぱり今日もビール飲むのね…

 今日の行程はコースタイム六時間といったところです。あまり印象に残っ ていません。朝は雨は降っていませんでしたが、朝起きるのがだんだん辛く なってきました。朝がきて、また今日も歩かないといけないのかと思うと鬱 が入りはじめるのです。頑張って起きて、昨日歩いた針ノ木の分岐まで荷物 を背負って二〇分かけて再び登ってきます。ここを左に折れると、すぐに七 倉岳の山頂へやってきました。北葛岳をこえて、標高二二七五mまで大くだ りします。やせ尾根で注意して歩いていたのは覚えていますが、地図上のハ シゴと書かれたところは、なんか二段か三段かの短いはしごがかかっている だけで大したことはなかったように思います。周囲は割合ガスがちなのです が、左手の鞍部には時折針ノ木小屋が見えています。かつて写真で見たのと 同じ形ですのでまぎれもなく針ノ木小屋でしょう。すぐ近くに見えます。
 北へ向かっているのに、あんなすぐ近くが今日の目的地なのかと思うとやる せない気分になってきました。足は相変わらずですが、昨日の夕方みたいに 激痛を我慢して、歩いているのが不思議なほどひどくはありません。一晩寝 ると少しは回復するものです。そして、多少痛くても靴紐をしっかりしばっ てしまえば、なんとか歩けるものです。

 北葛乗越までやってくると、目の前には岩がちな山が見えます。そして、登 山道はどこについているやら、という感じです。目の前に見える岩だらけの 尾根はありますが、まさかここを登るのでしょうか。とても登山道には見え ません。鞍部も見えていますが、登山道なんかついていないように見えるの です。どこを登るのかと思ったら果たしてこの岩だらけの尾根を登るのでし た。鞍部から、いきなり鎖の連続です。落ちないようしっかりつかまって一 段登ると、つぎつぎに鎖がやってきます。そもそも鎖場というものが好きで はない僕はだんだんしんどくなってきます。一段上がったところに出ると、 今度はザレの大登りです。蓮華の大下りという名前がついていますが、下り ではなく登りです。しんどい思いで登ります。間もなく蓮華岳の山頂へやっ てきました。ああ、いい山頂だ。展望はないけれど、こういう稜線は僕は大 好きです。ここから西へ向かって下っていきます。周囲にはコマクサが咲い ていました。あとはくだりコースタイム四〇分ですから楽勝です。時間はま だお昼前ですが、早く小屋について、今日は濡れたシュラフと濡れた靴下の 干し物をしたい。山頂には長居せずに下っていきます。が、四〇分どころか 一時間近く歩いても小屋が見えてきません。ドキドキしてきました。もしか して道を間違って針ノ木雪渓を下っちゃった?うーん、そんなことは多分な いと思うんだけどなあ。で、これは反則と思いつつ、向こうからくる人に小 屋はすぐそこ?って聞いてしまいました。山の中で人に道を尋ねる行為は実 に格好悪いものですが、空身の人が上がってくるところから想像して多分小 屋はまだ下だろうと踏んではいました。でもちょっと確認してみたくなった のです。
 いわく、うーん、すぐそこですね。良かった良かった。小屋はすぐそこだ。 ほどなくして、岩を回り込むと下に小屋が見えました。まだ小屋まで五分位 かかりそうですが五分はロスタイム程度だし、道も間違ってないということ で一安心です。
 ザックを置いたらテント場の受付です。針ノ木小屋のテント場は場所指定制 で好きな所に張れません。一人用のテントですから小さいスペースをあてが われますが、別に窮屈ということはありませんでした。しかし、この場所か らは何の展望もありません。少し針ノ木雪渓の雪が下の方に見えています。 上のテント場には、多分三俣山荘で一緒だった、ツェルト+フライ+ポール のお兄さんがいます。どうやら親不知まで行くらしいですが、足の速さが違 います。きっとまた置いていかれることでしょう。結局この日が最後の遭遇 で、僕より一日早く下山した模様です。
 隣のテントは針ノ木から上がってきて、明日新越山荘方向へ向かう奇特なグ ループ。なぜか小さいテント二張りの行動で、テントを張り終えてすでに宴 会に突入しています。よく見ると、銘柄こそ小屋で取り扱っているスーパー ドライですが、小屋では取り扱っていない五〇〇ml缶です。重いのに、持っ てきましたね。ムフフ。

 で、テントの場所が決まったら、次は水です。今日はもう足がしんどいので、 極力軽くしてきています。で出発するときに船窪岳のテント場の砂に水を飲 ませてしまいました。従って、今は何も水を持っていません。一L二〇〇円 と高い水ですが、昼食もまだですし翌日の行動用もありますから、都合三L お願いします。チーン、六〇〇円のお買い上げ。水で六〇〇円かよ…

 そして、底なしの空腹がやってきました。ここ数日、だいぶ空腹を感じるよ うになってはきていたのですが、もう限界近くなっています。朝、朝食をた べて、一時間も歩くと空腹なのです。行動食を食べて、もう一時間持たせま すが、それでおしまい。次は昼食です。火をおこしてラーメンを作り、食べ ます。一時はいいですが、それも一時間しか持ちません。あとは手持ちの食 料はないのです。こんなこともあろうかと思って、フリーズドライのおぞう にを持っていますが、それも数が決まっています。これを食べてしまえば、 もう手持ちの食料からは何も食べることはできません。

 もう、エネルギーの源になる脂肪の残りがないのです。だんだんやせていく のは山の常ですが、出発時の脂肪量が五kg。白樺湖まででそのうちの三kg を失っていました。たぶん、北アへ入ってから一kgは脂肪を減らしたこと でしょう。もうこれ以上やせるだけの脂肪という原資が残されていないので す。白樺湖で体重をはかったときに、そのことに気づいておくべきだった。 尤も、気づいたところで何ができたわけではないのですが、まあせいぜい下 界で食いだめ位はできたでしょう。島々で夜明かしした日の夕食も一人前だっ た。

 そうです。あの日はそれこそ必死になって食べておかなければいけなかった のです。

 あとは、反則と思いつつ、小屋を頼るしかありません。小屋で食事を頼むの はフェアではありませんが、どんなスタイルであろうととにかく日本海まで 行き着かなければ話ははじまらないのです。というよりも、もはや食べなけ れば歩くことはおろか、生きていくことさえできません。で、今日は小屋で 昼食を頼んでしまいます。薄い記憶を頼りに思い起こしてみると、たしか頼 んだのはカレーだったと思います。で、今日は昼がカレーだったから夕食は 中華丼にしよう、とか思っていたんだよな。

 続いて、冒頭の通りビールです。

 ビールを持ってニコニコしながら小屋の前へ出てくると、小屋の前で宴会を している組がいますので、そこへ入って乾杯します。しばらく話し込んでい ると、雨がポツポツとやってきました。まずいです。テントの前は大干し物 大会になっています。またシュラフが濡れてしまいます。三俣山荘と同じ失 敗を繰り返してしまいました。靴擦れが痛い足で、走ってみようと頑張った のですが残念ながらもう走れません。とにかく頑張って歩いて、取り込みま した。幸いにしてほとんど濡れてはいませんでしたが、これでまた濡れたシュ ラフで一夜を明かすことが決定です。そして、フライのファスナーをちー、 と閉めてテントにこもります。あれ?向こう側見えてない?なんか、ファス ナーの向こう側が見えています。これは大変です。フライのファスナーがバ カになってしまったようです。ポールを曲げて、ファスナーがバカになって、 しかもかぎ裂きがあって、バックルが割れているテントです。五年位のつき あいになるでしょうか。そろそろ、買い替えを検討する時期に入ったのかも しれません。ともかく、下山まであと約一週間、このテントで持たせなけれ ばいけません。
 今回持っていったテントはダンロップVL−一1。出た当時は世の中で一番軽かっ たテントです。軽いのですが、狭い!一人用の夏用として買ったのですが、 一〜二泊程度のテント山行では使い勝手を考慮して二人用の方を担いでいく ようになりました。で、やはり夏の年一回の縦走だけしか出番がなくなって います。世間でもやはり不評だったのでしょう。現在は廃番になっており、 少し広く重くなったのが新たに一人用とされています。

 ぐずついた天気が続いているのは、ラジオによりますとここしばらく前線 が南下して停滞しているのだそうです。夏場の天気はこんなもん、とも言 えなくもないですが、本当に晴れてくれないと足が辛い。だんだん山歩き がつらいものに感じられるようになってきました。どうか、明日は晴れて いただきたいものです。

区切り線
写真 えーっと・・・どこだろう。ごめんなさい。
写真 これはライチョウですな。
写真 蓮華岳の山頂へやってきます。針ノ木雪渓のぼって針ノ木岳と蓮華岳を往復する人が多いようで、蓮華岳を過ぎると途端に人が多くなりました。
写真 靴擦れはだんだんひどくなってまいりました。この日の靴擦れ写真です。


最終更新日: 2016/07/22 by htmltophp.php




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