サイトマップ | 更新停止のご案内 | このサイトについて


   

八月二十二日(縦走二十七日目) 
白馬鑓温泉〜鑓ヶ岳〜杓子岳まきみち〜白馬岳頂上宿舎

 病院通いの身というのは不自由なものです。今は朝起きるのが辛い程度で特段の不都合はないのです が、それでも不治の病。二八日ごとに病院へ行って、薬をもらってこなけ ればなりません。
 前回の病院が七月二五日だったので、その二八日後というのは今日八月二二日で す。本来今日は病院へ行く日なのです。でも、ここまできたら病院ごとき で引き下がれません。先生ごめんなさい。この日は暴風雨で下山できませ んでした。…ということに、しておきます。
 なんとか薬は食い延ばしして、一週間病 院を先送りしてしまいます。でも、これが限度です。持ってきた薬の量はきっかり四週間分。これを、 五週間までは食い延ばせても、六週間までは食い延ばせません。なんとし てもあと一週間で決着をつけて、下界で車を回収して、自宅へ戻らなけれ ばならないのです。一日位はなんとかなりますが、それ以上停滞している 余裕はありません。とにかく、日程に余裕がないことだけは間違いありま せん。
 当初、この山行は病院の都合上、二回にわけて行う予定でした。が、やは り二回の山行と、一回で通して歩くのでは全然難易度が違います。やはり 太平洋から日本海へ歩いている人の記録で、多分荷揚げとかの都合上のこ とでしょう。一度自宅へ帰っているものもありましたが、やはり一回で決 めたい。一回で決めるためには、とにかくあと一週間以内に決着をつけな ければなりません。

 幸いなことに、目の前のピーク白馬岳を踏んだら、あとはルートが長いも のの、とにかく下山するだけなのです。もう、宿泊地もエスケープルート も数多くはありません。よほど悪天につかまらない限りは、無事ゴールす ることができるものと思われます。

 朝、小屋では食事をしている時間に出発します。雨は昨夜から降り続き、 今も降っていますが、今日は白馬岳頂上宿舎までの五時間三〇分。まあ、 余裕ってところでしょう。
 白馬鑓温泉をすぎるとほどなくして鎖場がやってきます。トラバースメイ ンで、さほど高度感もなく足場も悪くないのですが、でも今日は雨で足場 が濡れています。鎖も濡れています。しっかり握って、慎重に足を進めま す。ちょっと時間がかかってしまいました。
 鎖場をうまく乗り越えると、すぐにカール状の地形へ出てきます。一面お 花畑で綺麗です。左側にはとんがったピーク(登山道のついていない支尾 根上の小ピークらしい)が霧の中に見え隠れしています。右手は完全にガ スに覆われていますが、稜線まではそんなに高さはない感じです。
 ふりかえると、少し空は高く見えています。ここは、大出原と呼ばれる場 所のようです。僕はこの場所を気に入りました。なんだ、大雪渓を登るよ り、こっちのルートの方が全然素敵です。
 少し頑張ると、稜線に出てきます。稜線には人が立っていますので、あの 人は天狗山荘からきた人でしょう。今日は鑓方向に下るようで、こちらへ 向かってきます。稜線直下で入れ違いをして、今度は僕が、鑓温泉から二 時間半でコースタイムを三〇分つめています。稜線に、今、立ちました! とたんに凄い風にあおられます。まるで天気が突然変わったように暴風雨 に叩かれます。とてもまっすぐ歩けるような状態ではありません。稜線は 鑓温泉からは想像もつかないようなとんでもない天気になっています。

 とにかく、どうにもならなければ鑓温泉へ一旦引き下がるところですが、 頂上宿舎まで、あと二時間です。なんとかもちこたえられそうな感じです ので、先へ進むことにしました。が、風雨に耐えての行軍です。あっとい う間にザックカバーはあおられて引き剥がされてしまいます。さきほどヤ バいと思って急いでザックを下ろしてザックカバーのフックをザックに括 りつけたばかりです。間一髪ザックカバーを失わずに済みました。引き剥 がされたザックカバーは首にまとわりついて首を絞めようとしています。 ザックに括り付けておいたタオルは、風で飛ばされてしまったようです。

 この、稜線から頂上宿舎までの間になにがあったのか、全くといっていい ほど何も覚えていないのです。ただ、きつい登りも厳しい下りもなかった のは覚えています。なだらかな斜面を登っていくと、ほどなくして鑓ヶ岳→、 と書かれた道標が立っています。右を見ると、すぐ上が鑓の山頂のようで す。荷物を下ろしたり背負ったりするのはつらいので、ここは実荷で往復 することにします。杓子岳は気づかないうちに巻いてしまいました。
 杓子岳をすぎて、あとはそろそろかな、と思ってからまだ三〇分位歩いて、 妙な分岐が出てきました。稜線沿いと、少し下るルートがあります。最初 稜線沿いに進もうかと思ったのですが、ん、まてよと思って少し下るルー トの方へ戻ってみました。こういうときのカンは当たるもので、降りたと ころがテント場です。学生団体らしきグループが大きなテントを数張り張っ ています。多少風にあおられていますが、稜線の風下。なんとか凌げそう です。今日はテントで行くことにします。で、受付を探すのですが…建物 がでかい上に、道が複雑でどうなっているのかよくわかりません。建物の 縁を回ってくださいなんて書いてあるから、バカ正直に縁を回ったら行き 止まりになってしまいます。こんな筈じゃないんだけどなあ、と思って反 対側へ回って登山道を進むと、ようやくテント受付を発見できました。
 喜び勇んで、テント!と声を出します。まだ一〇時前ですから、この時間 に頂上宿舎にいる人はみんな今日大雪渓を下って下山するわけです。バカ みたいにこんな天気の中、縦走をしようなんていう人はいません。従って、 僕が今日はじめてのお客さんになるわけです。ノートの一番上の欄に名前 を書いて、幕営料を支払います。と、受付のお兄さんこう言うわけよ。今 夜も雨は相当降るだろうし、風も強まるはずだから、無理しないで素泊ま りに変更してくださいって。この商売上手が。僕もこの状態ならともかく として、これ以上崩れるのであればテントはしんどい。とにかく、今雨が 降っています。しんどい設営をして、今夜は風に耐えなければいけません。 テント泊がひどく面倒なものに思えてきました。もう疲れているのです。 もう、山はいいのです。せめて一日停滞にしたいところを押して、何日も 歩き続けています。もうどうでもいいや、という気分になって、小屋に変 更してください、と口走ってしまいます。これで、今日は小屋泊まりにな りました。それも、素泊まりではなくて二食つきです。手持ちの食料が減 りません。いったいどの位食料持って下山するつもりなんだ?でも、僕は 小屋で素泊まりで泊まるのはもったいないと思っています。寝るところな んかどこでもいいし、小屋で寝るよりもテントで寝たほうが、絶対に快適 なのです。小屋のメリットはやはりおいしい食事が出てくること。これに 尽きると僕は考えています。

 いったん小屋の方で受付をして、で、テント場の受付(小屋の受付とテン ト場の受付は別)へ戻ってきます。ここはレストランになっています。で、 頼むのは、もちろん例のやつです。コロボックルヒュッテからはじまって、 冷池山荘でも食べそびれて、猿倉荘でも食べることのできなかった因縁の ケーキセット。ケーキはちょっと小さめでしたが、まあおいしく頂けまして、一〇時のお やつは優雅に堪能しました。食べたら小屋の方へ撤収して、自炊装備を使っ てあらためてコーヒーにしました。

 さて、今日は人はやってくるのでしょうか。と思って心配げに外を眺めて います。この天気で大ガスで大雨では大雪渓を上がってくるのは苦しいで しょう。何人かはやってきたようなのですが、結局受付の白板の夕食欄に は「五」と書き込まれました。
 あの、白馬岳の、一〇〇〇人泊まれる山小屋で、夕食の数が五ですよ。こ んな日もあるんですねえ。白馬大雪渓で事故があった年の、暴風雨の天気 の、それもお盆を過ぎた平日という条件はあるものの、場合によってはこ んな日もあるんだ、と感心しました。で、頂上宿舎の夕食は通常バイキン グ(別料金でステーキのディナーもあり)なんですけど、五人ではバイキ ングはできません。このときは一人分がしっかり皿に盛られて出てきまし た。おかずのおかわりはありなのか?とか図々しく聞いてみようかと思っ たのですが、もういいので聞きません。ごはんをてんこ盛りにして頂きま した。朝はちょっと寂しい感じだったので、相対的に評価が、夕食が四つ 星、朝食が三つ星位で、北アではイマイチな部類なんじゃないかなあ、と 僕は思いました。

 さて、僕の割り振られた部屋は、浅間の間の、左の下の一番。この部屋は 蚕棚になっていて、左右があって上下があります。布団は横に四枚敷かれ ていまして、この布団には枕が三つ装備されています。ということは、 四×三×四で、この部屋には最大四八人が収容される、ということになり ます。ですが、今日はこの部屋に一人…個室状態です。あんまり混んでい るのもやだけどさ、あんまり寂しいのもなんだと思う。
 あんまり寂しいのも何なので、諦めて再び談話室に行きまして宴会に 紛れ込みます。この日は寒くてビールな気分ではなかったので、日本酒に したのです。で、二杯目を持って談話室で乾杯です。で、なんか話し込ん でいるうちに、おつまみをわけて頂いて、そのうちこれ持ってけ、と、ソー セージの五〜六本を頂きます。もう下山が近いから、とか何とかいって一 旦は丁重にお断りしたのですが、なんとまた乞食復活です。結局またもらっ てきて、行動食が増えてしまいました。暫く頑張っていましたが、八時に なったのを潮に自分の部屋にひっこんで寝ることにしました。布団があま り良質でないのと、人気がないので少し寒い思いをしました。自分のシュ ラフを出したほうが快適だったのかもしれません。


*コースガイド

鑓温泉から大出原の間には鎖がいくつかかかっています。高度感はありま せんし、半分くらいは鎖が要らない程度ですが、一応慎重に通過するよう にしてください。
稜線に出れば特に危険なところや迷うようなところはないと思います。お 花は大出原のあたりが多くて、稜線上にはあまりお花は咲いていなかった ように記憶しています。

区切り線
写真 うーん、ごめんなさい、何撮ったんだろう。
写真 こちらが、夕食。基本的にはバイキングになると思うのですが、この日は個別に盛られて出てきました。


最終更新日: 2016/07/22 by htmltophp.php




mixiチェック

mailto:mailaddress

tozan.net - http://tozan.net