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八月二十三日(縦走二十八日目) 
白馬岳頂上宿舎〜白馬岳〜三国境〜雪倉岳〜朝日小屋

 ル・マン二十四時間耐久レースが好きだった。
 二十四時間、走りとおすこと、というのは大変なことです。常に全力では走 れません。どこかで何かを温存しなければ、完走はできないのです。
 ル・マンは毎年楽しみに見ていた時期がありました。

 今山行は、ル・マン二十四時間レースに似ています。全力で走り抜けるだけ では完走できないのです。そして、レースはいよいよ終盤です。事故のな いよう細心の注意を払いながら、温存しながら、庇いながら、それでもな おかつ大胆な行動が必要になってきます。最後に0になるように、うまく 消耗させていくことが必要なのです。

 朝から大雨です。朝起きたのは四時頃だったでしょうか。朝食まではまだ 少し時間があります。談話室へ行って本でも読もうと思ったのですが、談 話室には鍵がかかっていました。しばらくベンチの上でぼーっとします。 やがて、遭対の人がやってまいります。隣に座っているのは、やはり僕と 同じ朝日岳まで行く、と言っている人。どうやらこの雨の中でかけるようで 出発の準備をはじめています。
 僕はといいますと、外は豪雨です。この雨の中歩きたくはないのです。気 持ちは停滞のほうに傾いています。うーん、停滞かな。受付のおねーさん がかわいいから一日受付のおねーさんの顔を見ながら過ごすのも悪くない。 受付のおねーさんはいい迷惑だろうて。
 そして、決定的なことが起こります。落雷があったのです。雑音が入って、 続いて無線がやってきます。今落雷がありました。場所は白馬岳の頂上付 近−これで、しばらく出発はできません。
 とりあえず、朝食に入ります。だだっぴろい食堂の片隅に、ポツンと今日 の宿泊者分の朝食が用意されました。そうだよな、こんな天気の日に登っ てくるのは、やっぱり問題アリだよな。
 で、またこれはチャンスとばかりに腹いっぱいごはんをおなかにつめこみ ます。
 隣で準備していた夫婦は、どうやら先に出発したようです。外を見ると、 心なしか先ほどよりは良くなったような気もします。暫く雷も鳴っていま せん。
 さてどうするか。朝日までは六時間四五分。晴れていればさほどの距離で はありませんが、この雨ですからちょっとしんどい距離になるでしょう。 停滞してもいいのですが、明日天気が回復する保証はありません。ここ一 週間くらいは天気の悪い日が続きそうな感じです。おまけに台風も近づい てきました。このまま停滞に入ってしまうと、四,五日の停滞になって、 挙句大雪渓から望まない下山になってしまう公算が高い。できれば駒を進 めておきたい所です。

 ここから三時間歩くと、雪倉岳の避難小屋に出ます。自炊宿泊装備は全部 もっていますから、最悪雪倉岳の避難小屋泊まりという手もあります。こ の避難小屋は非常時以外には使ってくれるな、ということですが、朝日岳 を目指していて、豪雨のためたどり着けなかった、という場合は、遭対の 人がなんと言おうともう仕方ないでしょう。この天気ですから朝日までは ちょっと頑張らないといけませんが、最悪、ほんと最悪の場合雪倉の避難 小屋をあてにする、という気持ちで出発することにします。

 出発してしまえば、雨量は多いですが風がほとんどありませんので昨日よ り楽な位で歩けます。靴は昨日一日乾燥室に入れっぱなしだったので生乾 きになっていますが、一時間と持ちません。すぐに靴の中は水びたしです。 もう靴がダメなのです。この靴とのおつきあいこそ四年目ですが、この間 に二五〇回近い山行を経験しています。足首のところは擦り切れているし、 かかとに至っては、擦り切れてボロボロになったので当て革をしてもらっ たのですが、その当て革すらも擦り切れて中の具材が丸見えになっていま す。靴底は、五月に張り替えたばかりですが、もう磨り減ってそろそろ張 替えないといけないような状態になっています。
 普通の人は年間の入山日数が三〇日くらい、という人が多いでしょう。今 回の山行は約三〇日。要するに、普通の人の一年分を歩きとおすことなの です。三〇日弱、防水スプレーを一回も塗っていません。でも、頂上宿舎 で聞いた話によれば、もう防水スプレーの問題ではなく、靴の問題のよう なのです。
 今回履いていったのは、スカルパのアイガーという重登山靴。二〇〇〇m くらいの冬山にも対応する靴ですが、今回の山行を最後に、新しい靴に買 い換えることにします。靴を買うという行為は大なり小なりリスクが伴う もので、アイガーは四年前に売っていたまだ現行モデルです。これと同じ やつを下さい、が通用します。当たりが出たりしたら嫌なのでまた同じ靴 を買おう。この靴はアッパーが痛みに弱い感じがしますが、足にはぴった りだった。靴を買いかえるリスクには代えがたい。

 小屋を出て、一時間か二時間くらいの間、雷様やってこないでオネガイ、 と祈りながら白馬山荘へ向かいます。白馬山荘まではあっという間ですが、 白馬山荘から白馬岳の山頂はガスで見えません。山頂直下は危険なので、 とにかく一刻も早く離れようと足を進めます。白馬岳直下にはライチョウ がいました。へえこんなところにライチョウがいるんだ、と感心します。 展望もないまま黙々と踏み跡をたどります。もうこれは登山ではありませ ん。単なる足上げ運動です。とにかく周囲を眺める余裕もなく、あとは歌 でも歌って気を紛らわせるしかありません。
 ほどなくして三国境へやってきました。ここは二重山稜になっていて、登 山道は西側の尾根についています。県境は東側の尾根のようですので、こ こは富山県です。ここを直進すると、ほどなくして新潟と富山の県境を歩 くようになります。ようやく新潟がやってきました。でも、登山道の整備 をしているのは主に富山県側のようで、道標は富山県が整備したものばか りのようです。
 三国境で、先行して出発していた夫婦を追い越します。で、三国境のすぐ 下で再びライチョウです。
 すぐマツムシソウの群落地にやってきました。秋の花マツムシソウは、今 が盛りとばかりに一面に咲き誇っています。夏の盛りに入山しました。も う、秋なのです。いよいよ夏は終わります。そして、この旅も間もなく終 わりを告げます。

 さらに三〇分位あるくと鉱山道との分岐にやってきますが、ここには小さ い道標で蓮華温泉と書かれたものがポツンと一つだけ立っています。ここ は直進します。正面に高い山が見えてきますが、これは鉢ヶ岳。登山道は 巻いていきます。巻いて巻いて、向こう側へ出たかな、と思った頃雪倉岳 の避難小屋に到着です。左の影から避難小屋が見えてきます。
 雪倉岳の避難小屋は宿泊に適するのですが、内部に混雑を避けるためもし くはスケジュールの都合などでの宿泊は禁止、と書かれていました。でも、 そこに建っているんだからいいじゃないか、と僕は思いました。水場はあ りません。
 雪倉岳の避難小屋で一旦休憩に入りますが、長居はしません。行動食を食 べたら再びさっさと行動開始です。ここからはちょっと長い登りをこなし ます。でも、そんなに高い印象はありませんでした。よし、山頂、と思っ たらその先にピークが見えます。もう一回、今度こそ山頂と思ったらもう 一回ピークがありました。結局、コースタイムが一番信じられるというこ とです。ほぼコースタイム通りで雪倉岳、到着です。あとは大きく下って いきます。いつしか雨脚は弱くなってきました。燕岩の手前あたりから木 道がはじまります。周囲はずっと湿原のようです。が、雨の木道は実に滑 りやすい。滑らないよう注意しながら行くので、あまりペースは上がりま せん。すこしコースタイムから遅れ気味のペースで、水平道と朝日岳の分 岐へやってきます。闇テンで朝日岳の先までいければ明日の行程はぐっと 楽になりますが、闇テンは反則です。ここは朝日小屋へ向かうのが正解で す。僕の地図には水平道はアップダウン多く山頂経由とたいして違わない、 と書かれていますが、一時間三〇分、かからずに水谷コルへやってきます。 木道は右と左に続いています。道標はあるのですが、朝日小屋とはかかれ ていません。ハテどっちかな、と思って地図を見返してみますと、小屋は 分岐の左側に書かれていますので、あの小ピークをこえた向こう側徒歩五分位のところ、と読みました。この登りは気分的にちょっとしんどいです が、予想通り小ピークをこえた向こう側に朝日小屋はありました。
 雨は相変わらずですが、風はありませんので今日はテントにすることにし ます。テントの受付をして、ビールを一本。しかも、五〇〇缶です。ま た飲むんかい。もう飲まなきゃやってらんねえよ。
 朝日小屋のテント場は広い裸地になっています。区画らしきものが全くな いので、この広い裸地のど真ん中にテントを張ることになりました。どう せ今日テント張るような人はいないでしょうが、何か区画におさまってな いど真ん中なので落ち着きません。まあ、いいやと思ってビールを飲み始 めます。時折人の声が聞こえます。小屋に到着した組なのでしょう。 いつしか、雨は上がっていました。今朝の荒れ方からは想像もつかない天 候の回復です。今日はしんどい一夜になると思っていたのですが、これな ら楽勝です。
 そして、ここが最後の営業小屋です。明日は避難小屋ですからビールが手 に入りません。少し早いですが、太平洋日本海縦走完走祝いです。二本目 のビールも行ってしまいました。誰も祝ってくれる人がいない、一人きり の寂しいお祝いです。

 やがて、小屋番がテントの所へやってきました。テントの方、今日は小屋 に泊まる人四〜五人で余裕があるから、もし良かったら乾燥室使ってくだ さいとのこと。確かに僕の荷物は濡れ物ばかりです。が、シュラフはそん なに乾燥室で干さないといけないほど濡れてないし、一番乾かしたいのは 実は靴なのです。ですが、靴を置いてきて、どうやってテントに戻れとい うのでしょう。うん、干したいですが、もういいや、と思って丁重にお断 りします。ありがとう。またの機会に乾燥室使わせてもらいます。

 夕方六時位になると、少し晴れました。白馬岳は相変わらずガスの中です が、雪倉岳は良く見えるようになります。でも、歩いてきた道はふり返ら ない。もう先を見るしかありません。小屋の前からは晴れていれば富山湾 が良く見えるようです。が、今日は雲の下。海を拝むことはできませんで した。
そして、山影に夕日が沈んでいきます。この山行に入って、はじめての夕 日です。結局、夕方の天気としてはこの日が一番良かったのではないかと 思います。
 今年は天候不順だったと思います。あまりすっきり晴れた日がなく、雨が 降らない日でも朝からガスに覆われることが多かったように感じました。 じりじりと照りつける辛い日はありませんでしたが、雨には悩まされまし た。とはいえ、台風などの決定的な悪天には捕まらず、停滞〇でここまで やってきたのですから、条件としては悪くない年だったのでしょう。

 うん、多分悪くない年だった…そう信じることにします。

 夕日の撮影をして、あとはゆっくり寝るだけです。今日は快適な一夜にな ることでしょう。

区切り線
写真 白馬岳の頂上へやってきました。でも、展望はありません。それどころかいつ雷がきてもおかしくない天気。写真だけとったら、それっ逃げろ〜
写真 雪倉岳の山頂へやってきます。
白馬岳と朝日岳の間って、11キロもあるのね…
写真 ニッコウキスゲが咲いていました
写真 朝日小屋の様子
写真 テント場から雪倉岳方面をふりかえったところ
写真 多分、この方角に、天気が良ければ富山湾が見えるのでしょう
写真 日が沈んでいきます
写真 ぎんぎんぎらぎら夕日が沈む〜


最終更新日: 2016/07/22 by htmltophp.php




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