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8月5日

周囲の騒がしい音に起こされて目がさめる。今何時だろう・・・ まだ日はあがっていない。どうやら4時頃のようだ。空は白んで いるが、まだライトなしに歩けるような状況ではない。とりあえ ず寝ているわけにもいかないので、昨日買った朝食を流し込む。 なにしろ食べないと10日なり12日なり、そのまま放置されて 腐ってしまうのだ。やや無理して流し込み、出発の準備。といっ ても、荷物は詰めてあるので高度計をセットして靴を履くだけ。 最後にブレーキをギヤを確認して、この車ともしばしのお別れ。 長期なので奥の方に遠慮して駐車スペースを取ろうかと思ったの だが、残念なことにゲート近くにしかスペースがなかったのでこ ちらへ止めた。ここからゲートまで歩くのは、造作もないことだ。 やや体に力が入っているようにも思えたが、ゆっくりと、あの時 悔し涙を飲んでおりてきたゲートを再びくぐる。ゲートの間は人 が横になってやっと通れる位の幅しかなく、パンパンにふくれあ がったザックを背負ったまま通るのは一仕事だ。
時間はおよそ4時半。北沢峠行きのバスを待つ人はすでに列とな り、この頃には完全に明るくなっていた。
ゲートをくぐるとすぐ、左側に大きなつり橋があり、ここが北岳 への登山口だ。このつり橋を前の人に続いて、いや、若干遅れ気 味に歩く。彼等は小屋泊まりの軽い荷物で北岳を往復するだけ。 僕はテントを背負って静岡まで行く。荷物の重さがあまりにも違 いすぎるのだ。推定で30キロ近い荷物は、僕にとっては 背負えるぎりぎりのところにある。後ろを気にしながらのスター トとなった。
広河原から北岳へ向かうルートには尾根沿いのルートと沢沿いの ルートがある。尾根沿いのルートで登るとCTは7時間20分。 沢沿いのルートでは6時間ちょっと、となっているが、これはい くらなんでも厳しすぎで、7時間と見るのが妥当だろう。一昨年 はこの1時間のコースタイムマジックと500mの標高差の読み 違いに泣かされて敗退したのだ。今回も同じ大樺沢にコースを取 る。尾根上にコースを取るとどうしても上り下りがあるので、そ の分標高差が大きくなってしまうのだ。肩の小屋や白根御池小屋 などで宿泊するむきには尾根沿いでも良いが、時間的にそんなと ころで宿泊していたら何日かかるかわからない。最低でも今日は 北岳の対斜面にある山荘まで上がっておかないと先がないのだ。

今回は慎重に歩を進め、小屋泊組に追い越されながら、右岸に渡 るところ、左岸に戻るところも順調に通過して、二俣まで全く休 憩なしで進む。この時から考えると、なんで一昨年あんなに二俣 が遠く感じられたのか、まったくわからないのである。広河原か ら二俣へは、とにかく特筆することもなく、ただ単に順調に足が 進んだ、としか記述することができない。さすがに人の数があま りにも多いので後ろを気にしつつ、先に行ってもらうことが度々 あった。もっとも、小屋組には一旦追い越されはするが、彼等は 30分内外で座り込んで休憩を取るので、結局同じ人に2度3度 追い越されて、2時間3時間というスパンで見ればほとんど同じ ペースで進んでいるとしかいえない。最初は砂防堰堤の横を通過 したりして、アルプスとは思えない様相だが、2時間も進むとい わゆる「沢」らしくなってきて、いよいよ本格的登山だ、という 気にさせられる。二俣の手前あたりで森を抜け、砂礫の河原と変 わる。
通常、二俣で休みを取ることが多いのだが、今回はきわめて順調 にきているので、一旦立ち止まって水を飲んだだけで先へ進む。 勿論ここでも大勢の登山者が休んでおり、楽しそうにしている。 こちらはちょっと荷物の重さに負けて苦しさが勝っているが、悪 い気分ではない。僕はこの大樺沢にガスがかかって先が見えない ような写真も見たことがあるので、2度続けて完璧にクリアな大 樺沢を登れることに感謝。暑い。その分体力的には厳しいが、気 持ちのいい暑さだ。
前回は9月の渇水期ということで雪渓がないのは承知していたが、 今回は、ここを登るためだけに軽アイゼンを持ってきている。し かし、今年もほとんど雪渓らしきものは残っていない。岩の上よ り雪渓を歩いたほうが、はるかに楽で速いのであるが、残念なこ とに今回も岩の上を歩かなくてはならない。おまけに、早くも装 備の400gが無駄になってしまった。しかも、この400g。 静岡まで持っていかないといけないのである。トホホ。
大樺沢コースは、広河原から北岳山荘までの7時間、全く小屋の 類がないのであるが、今年から二俣にトイレが設置された。明る い河原に囲まれた気持ちのいいところだ。尤も、沢の中なので当 然展望といえば、北岳のバットレスしかない。この先のゴールし か見えない場所であるが故、すっかり晴れ渡ってゴールが見えて いるとかえって辛いことが往々にしてあるものである。
ここから見る北岳はほんとうに立派な容姿をしているのだが、悔 しいことに立派であればあるほど、あの山頂の高さを見上げるた びに、「まだあんなにあるのか」と思うのである。それは、多分 いつきても同じであり、今回もそれはかわらない。悲しい位視界 がひらけていて、そしてそれ故、自分がどこまで登らなければな らないか、嫌というほど思い知らされるのである。
それが、1700mという標高差の、標高差以上の恐怖である。 確かに、厳しいルートはいくつもある。所謂日本三大急登、とい うやつがあって、大樺沢はそれには含まれていないが、7時間に わたって全く小屋がなく1日で上りきらなくてはならない点、あ のゴールを常に見せられているプレッシャー。そして、どこの山 にも決してひけをとらない1700mという絶対的な標高差。そ して、疲れてくる後半になればなるほど急になる斜面。その上、 構造上どうしても荷物の量が増えてしまうこと。大樺沢は、日本 三大急登ではないかもしれないが、それに匹敵、いや、それ以上 にキツいルートであることは間違いないだろう。

正面が八本歯のコル。ここがとりあえずの目標地点で、ここへつ けば稜線に出る。左側は吊尾根。そして右側に聳えるのが日本第 2位の高峰である北岳。そして、谷側にある壁がロッククライミ ングのメッカ、バットレスである。登山道からこのバットレスへ 向かう、バットレス沢への分岐までは二俣から小一時間。前回は 2時間かかった記憶があり、この分岐のすこし先で登頂を断念し たのだ。今回はまったくもって順調にきていて、現在のところは 何ともなさそうだ。このバットレス沢で湧水を取り、いったんこ こでザックを下ろして休憩。大きな疲労感はなく、今回の登頂は ほぼ確信する。
相前後して登っていたクライマーと思しき、ヘルメットとザイル を持った、クライミングシューズらしき靴を履いた2名とはここ でお別れ。いかにも軽装という様相だったが僕とほぼ同じペース。 結構きつそうにしているが、そういうのを見ると何故か勇気づけ られるものである。
彼等は壁を登り、僕は道を登る。このバットレス沢出合から見上 げると、登山道はすぐ上で右岸(見上げて左側)に移り、ここで さらに角度を増している。そして、その先で沢は2つに別れてい るのが見えるのだ。上の方にもたくさん登山者は張り付いている が、さすがにここからどちらの沢を詰めるのかは、僕には見るこ とができなかった。すでにバットレスに取り付いているクライマー もいたようだが、僕には人影は見えなかった。
下は岩に直接太陽が反射するので、とにかく暑い。水の減りもや や早く、若干心配になる。
沢の詰めるところは大抵極めて急峻になっているのだが、大樺沢 も同じであり、最後まで沢を詰めるルートは後半になればなるほ ど急になる。従って、いかに前半体力を温存するか、が登頂の成 否の鍵であり、その点に気づいていれば前回登頂していたのかも しれない。さすがに角度もきつくなって体力的にも苦しくなって きたが、対岸へ渡り、本沢の源流まで辿り着いて水に濡れた石を 踏む。さあいよいよ前回リタイヤしたところをこえたぞ、と意気 込んではみるものの、やはり大樺沢は伊達ではなくて、もう意気 込んでも空元気しか出てこない。もう下だけ見て歩いていると、 稜線まであと200mくらいか?というところで多くの登山者が 休んでいる。何かと思ったら、沢を上へ詰めるのではなく、一旦 尾根にのっかって尾根から稜線に出るようなのだ。地図からは全 く読み取ることができないが、この場所に標識がたっており、右 を登れと書いてある。それではどちらの沢を詰めるのかはわから ないはずだ!だって、沢なんか詰めないんだもの。
で、ここまできたらもう稜線だ、と思って、嬉々として森の中に ついたトレイルに取り付くと、その向こうにまだ高さのある北岳 が・・・
さきほどよりも高さを増したように見えるその容姿。山に来て山 が嫌だ、というのも贅沢なものだが、さすがにこの瞬間は嫌になっ た。すれ違う登山者とは、いやー荷物の重さに負けちゃって、な んて、笑って話をしているが、かなり足のダメージは大きく、も う手で上がるような状況。幸いにも梯子が続くような状況なので、 立ち止まったりしながら進む。一応樹林帯の中だが、沢に沿って いる梯子なので、覗き込むとかなり高度感がある。底は当然見え ないが、後方をふりかえると、はるか下に二俣がチラチラと見え る。そして、上にはまさに鋸のような八本の歯が。それが1歩1 歩近づいてきて、最後は土の道にかわる。やった!稜線だ! 今回はあまりにも歩く面積が広いため、重量の関係上2万5千図 を持ってきていない。従って登山地図しか手元にないのだが、こ いつが目一杯濃い赤で登山道をぴーって引いてあるので、標高を 知りたくてもイマイチ正確なところを読み取るのが難しい。おま けにゲジゲジマーク(要するに、ガケ)ばかりなので、いまいち 等高線の状態がわかりづらいのだ。しかし、ここまできた以上、 もうそんなに標高差はないはずだ。少なくとも二俣あたりから見 た限りでは稜線と北岳の山頂の高さはほとんど変わらない。 ・・・・甘かった。伊達にコースタイム1時間ではない。まだ山 頂は300m以上登ったところだった。一旦ここでザックを下ろ す。チシマキギョウが咲いていたのだけは覚えているが、イワキ ギョウだったかもしれない。
細い稜線を先へ進むと肩への広がりに乗ったようで、ある程度幅 の広い岩場へとかわる。砂礫地の沢筋はそれでも歩きやすかった が、ここは岩場。段差も大きく足にも辛い。やがて北岳山荘への 巻き道が出てくるが、今日登頂するつもりなので巻き道ではなく、 北岳の肩を目指す。最後は砂礫地のお花畑を登って、北岳の肩へ 到着。10時35分。出発からはすでに6時間が経過している。 北岳の肩は約標高3100mで、残りはおよそ90mくらい。標 高差からして20分くらいでしょ、ということで、ほぼ同時につ いた人何人かと話し合い、ここにザックをデポして山頂を往復。 これで、今回の大目標である北岳の頂上を踏ませてもらった。北 岳からはあまり展望は望めなかったが、さすがに11時という時 間を考えればやむを得ないところである。その北岳のグレイトな 容姿からすれば意外と普通の山頂。面積は広く数十人が同時に立 てる程広い。
空身で北岳に登った下りは、ガイドさんの後ろを歩くような形に なる。地図をはっきり見なかったのだが、実は北岳からキャンプ 地である北岳山荘まで、徒歩1時間もあるのである。戻ってきた ら完全にガスっているが、なんとかこのガイドについて稜線を下 り気味に南下する。最初は痩せた尾根から入るが、すぐに広い尾 根にかわる。霧が出ているときはかなり危険なようで、山荘の所 には鐘があり、この音を頼りに進むようだ。私のときは時折ガス に巻かれる程度で視界はよく利いたが、視界が利かなくなってく ると誰かが鐘を鳴らすのであろう。その音が、かなり先から聞こ えてくる。ハイマツに覆われた気持ちのいい稜線だ。尤もちょっ と疲れ気味でそれどころではないのだが。
やや下を巻き道が通っているが、ガイドご一行は巻き道の方へ下 りたようだ。私は尾根沿いに進み、およそ1時間、12時すぎに 山荘に到着。幕営地は小屋前をどこでも可、だそうだが、小屋前 というのは、左右に2mくらいの稜線がある窪地なので、幕営地 にテントを張ってしまうと左右方向の展望は得られない。北岳方 面は見ることはできるのだが、北岳はガスの中だ。
ちょっと上がって上に張ろうとも思ったのだが、面倒臭かったの で窪地に張った。できるだけ明日の行程が短くなるよう、できる だけ上の方へ(笑)
人の数はきわめて多く、さすがアルプスの夏を実感。すでにビー ルなぞを飲んでいる人もいる。小屋には「本日は1枚の布団に3 人です」などと書いてある。おおっ1枚の布団に3人が出た!う わさには聞いていたが、1枚に3人ですか。いつも思うんだけど、 小屋組は大変ですなあ。僕なんか2人用のテントだから、1人で 布団1枚半の面積を占有できる。
で、どこにでも面白い人はいるもので、布団1枚って、どのくら いの大きさ?とか言っている人がいる。布団1枚といやあ、横90 センチに決まっているじゃないですか。全く持っておちゃめなん だから。
因みに、北岳の場合テント場には意外と余裕があるようで、今回 はサイトも一杯にならなかった。
テント泊というのは、意外とヒマでして、読むものも書くものも ないので、テントを張ってしまうと、あとは寝るだけが主な仕事 になる。前日車で入ったということもあり、あまり寝ていないの で僕も昼過ぎからウトウト。やがて雨の音で目がさめると、夕方 頃から雷鳴が。おおっ昨日の二の舞か!?こういうときは、1段 低くなっている場所にテントを張っているというのはありがたい もので、雷が落ちるのは稜線と相場は決まっている。撤収するよ うな人もいないし、私自身も別に怖いとも思わなかった。ただ、 夏によくある夕立だと思って無視し、再び眠りに戻る。やや寒く、 少し気持ち悪い。軽い高山病のようだ。殆ど気圧の低いのはわか らないので、まさか3000mそこそこで高山病になるとは思わ なかった。あまり起き上がる気にもなれず、その日はそのまま眠 りに落ちた。翌日の天気のことなど考えずに。

幕営料        400
水2L        200
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5日     600

8月5日の写真


最終更新日: 2016/07/22 by htmltophp.php




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